あるサービスからアドレス帳を書き出し、別のサービスに連絡先をインポートする。これで完了と思っても、実際に届いたデータを確認すると、名前とメインのメールアドレスしか残っていないことがあります。別の電話番号、郵便の宛先、昇進前の役職、そして誰に紹介されたかを 2021 年に書き留めたメモが消えていても、警告は出ないかもしれません。
原因はファイル形式だけでなく、インポート機能の対応範囲にもあります。CSV に認識できる列がなければ、その情報は取り込めません。多くの情報を保存できる形式でも、受け取り側が一部の項目しか読まなければ、残りは引き継がれません。
形式ごとの違い、移行結果の確認方法、重複する連絡先への対処を見ていきましょう。
連絡先は表の一行ではない
表計算では、一つのセルに一つの値を入れるのが基本です。しかし、連絡先には次のような情報があります。
- 勤務先、自宅、今も転送している旧アドレスなど、ラベル付きの複数のメールアドレス。
- 同じくラベルの付いた複数の電話番号。
- 一つの文字列ではなく、複数の項目で構成された住所。
- 時期によって変わる所属組織や役職。
- コンマや改行も含む、長さの決まっていないメモ。
- 写真。
- 所属グループ。一人が複数のグループに入ることもあります。
これを表に収めるには、繰り返し項目ごとに最初の値だけを残すか、email_2、email_3 のような列を追加する必要があります。ツールによって決め方が異なるため、書き出し側と取り込み側で列の扱いが合わないと、その情報が移行されません。
情報が抜けても気付けない場合があります。インポート機能からすれば、認識できた列をすべて読めば成功だからです。認識できない列は、結果に含まれないだけかもしれません。
連絡先の取り込みで vCard と CSV はどう違うか
| vCard (.vcf) | CSV | |
|---|---|---|
| 複数のメールアドレスと電話番号 | 形式はラベル付きの複数値に対応。ただし現在のファイル取り込みではそれぞれ一つを読む | 双方で列の定義を合わせる必要がある。現在の取り込みではそれぞれ一つを読む |
| 項目に分かれた住所 | 形式は対応。ファイル取り込み時には一つの文字列にまとめる | 通常は一つの文字列にまとめる |
| 写真 | 形式では保存できるが、現在のファイル取り込みでは引き継がない | 現在の取り込みでは非対応 |
| コンマや改行を含むメモ | 適切にエスケープされていれば保持できる | 引用符が適切なら保持できる。誤りがあると列がずれることがある |
| グループ | 対応はバージョンとアプリによる。現在のファイル取り込みでは所属を復元しない | 現在のファイル取り込みでは所属を復元しない |
| 表計算ソフトでの編集 | 一般的な表計算ソフトには不向き | 可能 |
| テキストでの変更比較 | 可能だが、項目の表現方法に左右される | 可能。ただし行の順序や引用符によって比較しにくくなる |
vCard は連絡先の交換に広く使われる形式で、その一つのバージョンが RFC 6350 で定義されています。繰り返し項目や複雑な住所を表現できますが、Google コンタクト、Outlook、Apple の連絡先、スマートフォンのアプリでは、バージョンによって書き出し方法が異なる場合があります。ファイルに項目があっても、取り込み側が保持するとは限りません。
元のアドレス帳を保存するために、vCard の書き出しも残しておくと役立ちます。 一括取り込みの前に、少数の連絡先で必要な項目が引き継がれるかを確認してください。表計算で編集するときや受け取り側が指定するときは CSV が便利ですが、拡張子だけで完全に移行できると判断しないことが大切です。
CSV で連絡先を取り込むのに向いている場面
CSV は、複数の名簿を合わせて重複を整理する、大文字と小文字を統一する、会社名を補う、2019 年以降連絡していない人を除く、といった作業に便利です。こうした編集には、アドレス帳の画面より表計算ソフトが向いていることがあります。
CSV には見出し行が必要です。列名の大文字と小文字は区別されませんが、表記そのものは重要です。次の例にある別名がすべて同じように認識されるわけではありません。
| 列名 | 対応する項目 | 必須 |
|---|---|---|
email または email_address | メインのメールアドレス。後者は見出しの一致候補を探す処理で認識される | はい。有効なメールアドレスが必要 |
name、または first_name + last_name | 氏名。名と姓を分ける場合は、下線を空白に置き換える | いいえ |
company または organization | 会社名 | いいえ |
job_title または title | 役職。前者は見出しの部分一致で認識される | いいえ |
phone | 電話番号 | いいえ |
address | 一つの文字列にまとめた住所 | いいえ |
birthday または birth_date | YYYY-MM-DD 形式の日付。後者は前者に変更するか、下線を空白に置き換える | いいえ |
notes | メモ | いいえ |
認識できない列は無視されます。更新時に空の値が既存の項目を消すことはありません。有効なメールアドレスのない行は飛ばされますが、ファイル構造の誤りや上限超過によって処理全体が取り消される場合もあります。大きなファイルは、まず少数の記録で試しましょう。
表計算ソフトには、ほかにも注意点があります。先頭が + やゼロの電話番号は、数値に変換されて先頭の文字が失われることがあります。読み込みや入力の前に列を文字列形式にしてください。変換で消えた文字は、保存しても戻りません。また、=、+、- で始まる値が数式として扱われる場合があります。特に出所の分からないファイルは慎重に開いてください。
利用するツールに事前プレビューがあれば、件数、数件のサンプル、検証メッセージを確認しましょう。現在のウェブメールはアップロードした連絡先ファイルをそのまま処理し、完了後に処理件数とスキップ件数を表示します。取り込み前のプレビューはないため、先にバックアップを書き出し、小さなファイルで試してください。
既存のアドレス帳へ取り込むとどうなるか
空のアドレス帳より注意が必要なのは、取り込む連絡先の一部が既存の記録と重なる場合です。
ツールによっては、見つかった連絡先を取り込みデータで丸ごと置き換えます。見た目は正常でも、情報が失われることがあります。CSV には少数の列しかなく、元の連絡先には携帯電話、住所、長年のメモがあったのに、置き換え後はファイルの項目しか残らない、といったケースです。
ここではメールアドレスが一致する連絡先について、対応している空でない項目を更新し、ない項目や空の値はそのままにします。会社名を追加しても、ほかの項目は残ります。ただし、CardDAV で受け取った元のカードはこの取り込みでは書き直されません。ウェブメールと CardDAV クライアントで情報が一時的に異なる可能性があるため、別々に確認してください。
どのツールでも、既存の連絡先をどう更新するかを確認しましょう。復元できるかはバックアップと変更履歴に左右されます。どちらもなければ、失われた項目を戻せない場合があります。
連絡先の重複
アドレス帳には次第に重複が増え、取り込みによってさらに増えることもあります。同じ人が anna@acme.com、a.smith@acme.com、anna.smith@gmail.com を使っていても、システムがすべて同じ人のものだと分かるとは限りません。
自動照合だけでは本人を特定できない場合があります。同姓同名の別人はいるので、名前の一致だけでは不十分です。メールアドレスは更新のキーとして分かりやすいものの、共有アドレスや別の社員に引き継がれたアドレスもあります。統合する前に持ち主を確認してください。
取り込み後は名前で並べ替え、重複の候補を確認します。大きな名簿では予想以上に時間がかかるかもしれません。アドレス、電話番号、関係する情報を人が確かめることで判断しやすくなりますが、似ているだけで同一人物と決めないようにしましょう。
あらかじめ表記の違いを減らすことも大切です。受信メールから連絡先を作れば送信者のアドレスが使われ、手入力では打ち間違いが起こりがちです。追加方法をそろえると役立ちますが、誰から届いたメールなのか、どのアドレスを保存すべきかは確認してください。
繰り返し取り込むより同期する
インポートで作るのは一度きりのコピーです。スマートフォンとウェブメールのアドレス帳を継続的にそろえたいなら、CardDAV による同期を使います。
CardDAV では、クライアントがサーバー上のアドレス帳を読み書きします。メールにおける IMAP に似た役割です。電話で追加した連絡先は、同期が成功した後に表示されます。必ずしも即時ではなく、ネットワーク、アプリのバックグラウンド動作、更新間隔に左右されます。
macOS と iOS の Apple の連絡先は CardDAV に対応しています。Android では DAVx⁵ がよく使われ、Thunderbird にも対応機能があります。Outlook では通常、別途プラグインが必要です。互換性はバージョンと選んだクライアントによります。
設定ガイド:macOS の Apple アプリ、iPhone と iPad、Android と DAVx⁵、Thunderbird。
同期は、電話とパソコンのコピーが長く食い違うリスクを減らします。ただし、競合、削除、設定ミスは起こり得ます。バックアップの書き出しの代わりにはしないでください。
アドレス帳の移行手順
- 元のサービスが対応していれば vCard で書き出します。 Google コンタクト、Outlook、Apple の連絡先の利用バージョンで、書き出し方法を確認してください。必要なら CSV を使い、元データは別に保存します。
- ファイルを開いて内容を確認します。 vCard はテキストです。情報の多い連絡先を探し、必要な項目が実際に書き出されているかを見ます。
- 必要なら表計算でデータを整理します。ただし形式とインポート機能の制限を踏まえ、完全な元の書き出しは別に残します。
- 少数の連絡先で取り込みを試します。 プレビューがあれば確認してください。現在のウェブメールでは、先にバックアップを残し、ファイルのアップロード後に結果を確かめます。
- 結果を抜き取り確認します。 先ほどの情報の多い連絡先を元データと比較し、接続しているクライアントの表示も確認します。
- 重複の候補を手作業で確認します。名前順に並べ、ほかの情報も照合します。
- 端末に CardDAV を設定します。繰り返し書き出す必要を減らし、双方向の同期が動くことを確認します。
- 移行の確認中は元ファイルを保護された場所に保存します。 個人情報を含むため、アクセスを制限し、保存期間も決めておきます。
連絡先は API からも取り込めます。MCP サーバーを使う場合は、利用できるツールと項目を確認してください。ファイル取り込みはグループの所属を移行しません。REST API では別の操作でグループとメンバーを管理でき、CRM のデータからアドレス帳を作るときに役立ちます。
よくある質問
連絡先の取り込みにはどの形式を選べばよいですか?
まず完全な元の書き出しを残し、可能なら vCard を選びます。そのうえで少数の記録を使ってインポート機能を試してください。vCard は複雑な項目を保存できますが、現在のファイル取り込みは一部の情報しか読まず、写真やグループは引き継ぎません。CSV は、見出しを正しく合わせれば表計算での編集に便利です。
既存の連絡先は上書きされますか?
メールアドレスが一致する連絡先の、対応している空でない項目が更新されます。ない項目や空の項目で既存の値を消すことはありません。ただし元の CardDAV カードは別に保持され、この取り込みでは書き直されません。ウェブメールと同期クライアントの両方で確認してください。
電話番号が正しく取り込まれなかったのはなぜですか?
表計算ソフトが数値として扱い、先頭の + やゼロを消した可能性があります。データを扱う前に文字列形式にしてください。すでに消えている場合は元の書き出しに戻ります。vCard は表計算による変換を避けやすくしますが、インポート機能の対応項目を増やすものではありません。
メールアドレスのない連絡先は取り込めますか?
vCard 形式自体では可能ですが、現在のファイル取り込みは CSV と vCard のどちらでも有効なメールアドレスを必要とし、ない記録は飛ばします。個別の CardDAV クライアントの機能とファイルアップロードの機能は区別してください。
スマートフォンに連絡先を表示するにはどうすればよいですか?
継続して使うなら、対応アプリで CardDAV を設定します。クライアントがサーバーのアドレス帳を同期します。アカウント、同期方向、実際の結果を確認してください。遅延や競合は起こり得ます。
取り込み時に重複は削除されますか?
インポートはメールアドレスが一致する記録を更新するもので、人物の同一性を判定しません。共有アドレスや別の社員に渡ったアドレスには注意が必要です。名前だけで自動統合はしないため、大量に取り込んだ後は重複の候補を手作業で確認してください。
連絡先を再び書き出せますか?
CSV または vCard で書き出せます。保存されるのは現在の書き出し機能が対応する項目であり、元の CardDAV カードの全情報とは限りません。大きな変更の前に適切なバックアップを書き出し、内容を確認してください。
連絡先のグループはどうなりますか?
vCard の対応はバージョンとアプリによりますが、現在のファイル取り込みは vCard でも CSV でもグループの所属を復元しません。REST API ではグループとメンバーを別の操作で設定できます。MCP については対応ツールを確認してください。